
赤外線の波長が2μmから20μmまでの領域はその物質固有の特性吸収が生じます。このことは1-2. 近赤外、中間赤外分光の原理でも述べました。この特性吸収は分子の各原子間の化学結合力と個々の原子の質量によって固有かつ独立に現れます。例として、図4に水(H2O)とポリエチレン(-CH2-CH2-)nの赤外吸収スペクトルを示します。水は1.9μmと2.9μmに-OH基の、ポリエチレンでは2.3μmと3.4μmに-CH基の吸収が現れていることが分かります。

図4 水のポリエチレンの赤外吸収スペクトル
また、膜厚の違いがスペクトル上にどのように現れるかを、図5に異なる厚みの水膜の赤外吸収スペクトルで示します。

図5 膜厚が異なる水膜の赤外吸収スペクトル
このように、物質の材質の違いによって赤外線領域に種々の吸収が生じます。したがって最適な波長帯を選択し、その吸収量を測定することができれば0.1μmの極薄コートから数mmまでの厚物コートまでを測定することは理論的には可能です。測定したい対象物だけの膜厚のみを計測したいコンバーテック業界においては、この最適な波長帯を選択できる赤外線方式は他の測定原理の膜厚計と比較して多くのメリットがあることは容易に理解できるでしょう。
実際に膜厚計として応用するには、図6に示すように、検量線つまり吸光度と膜厚との関係をあらかじめ登録しておき、実機で測定した吸光度を検量線にてリアルタイムに厚み値へ換算・表示させます。

図6 膜厚と吸光度の関係(検量線)
さらに、センサの光源変動や光学系の汚れ、測定対象物の色や濁りなど膜厚の変化には直接関係ない外的要因の影響を極力少なくするために、3波長方式つまり特性吸収波長だけでなくその吸収波長の長・短波長両側に二つの比較波長を用いる方法を採用しています。

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