シーズン6
面白いことやってやろう。クラボウは熱可塑性炭素繊維シートで複合材の新たな市場を拓きたい。化学品事業部技術統括部 調査・開発グループ 盧驁 面白いことやってやろう。クラボウは熱可塑性炭素繊維シートで複合材の新たな市場を拓きたい。化学品事業部技術統括部 調査・開発グループ 盧驁

いっそのこと世界を狙え

マンガ1 マンガ2 マンガ3

いっそのこと世界を狙え

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炭素繊維を樹脂で強化した炭素繊維複合材は、金属よりも軽く強いという特性から、航空・宇宙などの先端分野で大きな注目を集めています。今後、航空機や自動車の部材として普及が進めば、さらなる軽量化による大幅な燃費削減が実現し、カーボンニュートラルへの貢献も期待されます。ところが、現在、すでに航空機の胴体や羽根などの部材に使われている熱硬化性炭素繊維複合材は、2つの大きな弱点がありました。ひとつは、ものづくりの際に手間がかかり工程も多いため大量生産が難しいこと。もうひとつは役目を終えた後の部材のリサイクルが難しいことです。

これらは炭素繊維複合材の普及の妨げにもなるため、クラボウは弱点克服に挑みます。繊維事業と化成品事業で培ってきた技術を活用し、炭素繊維を一方向に薄く均等に広げ、熱可塑性樹脂パウダーでコーティングする独自の熱可塑炭素シートを開発。「クラパワーシート(KPS)」と名付けました。KPSは、パウダー樹脂を使用しているため炭素繊維に樹脂が浸み込みやすくなり成形時間も短く製造コストの削減にもつながります。しかも、柔らかいシートのため、複雑な形状に成形することも可能になります。これによりこれまで炭素繊維複合材が使いにくかった航空機室内やEVの部材などへの展開も視野に入り、さらなる軽量化への可能性が広がります。また、熱可塑性樹脂を使用しているため、今後、リサイクルの取り組みにも期待されています。

このKPSの事業開発を担う営業担当として白羽の矢が立てられたのは、当時、入社間もない中国出身の盧驁(ろ ごう)でした。盧は中国の地元大学に入学するも飽き足らず、グローバルなビジネスパーソンを目指して単身日本に留学。そのままクラボウに入社した行動派です。日・中・韓・英の4ヶ国語を操る国際性と行動力が期待されての抜擢でした。

盧は、さっそく反響を期待して国内の展示会でKPSをアピールしますが、素材としてのKPSの良さは評価されつつも、自動車産業をはじめとして日本では金属加工が中心で、複合材料の具体的な製品化の話になるとコスト等がネックとなり開発が見送られることもしばしば。。。。。「日本国内にKPSを普及させるには時期尚早」と判断した盧は、「環境への意識が高く、軽くて丈夫な炭素繊維複合材の市場も成熟しているヨーロッパを攻略のターゲットに!」と決断します。社内の了承を取り付けた盧は、ここでさらに大胆な行動に。世界最大の複合材の展示会であるJEC World をデビューの舞台に選び、パリに乗り込んだのです。

素材には自信があったものの、初参加のKPSが世界の業界関係者からどのように見られるのか、さすがの盧も一抹の不安を抱いていました。しかしJEC Worldが開幕すると、想像を超えた反響に不安は払拭されました。来場者は、KPSが熱可塑性複合材でありながら柔らかい風合いを持ち、大判の成形物が比較的簡単に作れる点に強い興味を持ったようでした。「この分野の、このような部材に使いたい」という、日本ではほとんど得られなかった具体的な引き合いも聞くことができました。

JEC Worldで大きな手応えを感じた盧は、それを確かなものにするために、またもや大胆な行動に出ます。バカンスシーズン真っただ中でアポイントも取りにくいにも関わらず、会場で良い感触を得たヨーロッパ中の企業を訪問し、より具体的なニーズを直接ヒアリングしようというものです。簡単なアポイントメントは何とか取ったものの、詳細は現地に着いてからという冒険営業。担当者が休暇を取っていたり、プレゼン用に準備したPCがセキュリティに引っかかったりとハプニングの連続。それでも臨機応変に対応し、なんとか滞在中の3週間の間に8か国をまわり最終的に予定していた15社ほぼすべて訪問し、商談を進めることに成功したのでした。

ヨーロッパ営業を通して大きな可能性を確信した盧は、海外での実績づくりを進めています。まずスポーツ用品などの商品化しやすい分野で成果をあげ、本丸の航空機分野への参入を目指します。その先には、将来的に大きな需要が見込めるドローンやEVへの展開や想定外の用途として、水素関連のタンクや配管などにも。そうなれば、「KPSを活かす土壌がまだない日本国内でも有望な市場をきっと生み出せるはず!」

炭素繊維複合材の世界は、原料の生産が日本、アプリケーション開発が欧米、部材の成形や最終製品の組み立てがアジアとそのサプライチェーンはワールドワイドに広がっています。インターナショナルなバックボーンを持つ盧にとって、KPSの生産・販売ネットワークを自らの手で築き、新たな市場を拓くのが将来の夢であり、使命であると考えています。KPSは、航空機やEVなどのさらなる軽量化に貢献します。それがカーボンニュートラルに繋がり、地球の環境負荷低減にも役立てると願って。